遊園地のチケット売り場ではありません。新宿公共職業安定所・高田馬場労働出張所です=8日(日)撮影。
日雇い労働者たちの求職を受け付けています。写っていませんが、周囲を鉄板で覆われ、入口も二重に柵がしてあります。 このため、間もなく移転して建物が撤去されるのだろう、だったら記録しておこう――と、金網の間からカメラを向けました。すると、背後から男の声で、 『何、撮ってんだ?』 この界隈が懐かしくて撮っている、と話すと、男は、 『このへん、いろいろとうるさいから、ちょっとね』 と、安心したようだ。50代半ば。近くの建設現場で働いている、という。出張所が柵などで覆われているのは、すぐそばの道路工事の関係で、業務は続けられている、という。 小学5~6年の頃(約35年前)、ワケがあって毎週日曜の朝に、山手線で新宿から大塚まで一人で通った。新大久保駅を過ぎると、西戸山公園や路上に男たちが何百人も集まり、いくつもの屋台から湯気が上がっていた。丼メシをガシガシ食う男、タバコを手に何か怒鳴っている男、仲間と話し込んでいる男……。子供心に、彼らのエネルギーに圧倒された。 一帯が 『寄せ場』 である、ということは高校に入ってから知った。事情通の同級生が、 『集まってくるのは、仕事が欲しい労働者さ。手配師が労働者を集めるんだ』 と、解説してくれた。通学路などにあった簡易宿泊所が、彼らのねぐら。界隈は、この出張所を中心に日雇い労働者が集まる “ミニ山谷” だったわけだ。 しかし、男は言った。 『出張所に来る連中は、今じゃもう数えるほどだね』 今でも早朝、手配師を頼って50~60人は路上に集まるが、昔に比べれば激減し、男たちの活力供給源だった屋台も、消えて久しい。 彼と話すそばから、着飾った若い女性が甘い香りを残して通り過ぎ、カップルや子連れ夫婦らも楽しげに行き来する。不細工なくせにやたら清潔そうな犬が、足下にまつわりつく。新大久保方面へちょっと歩けば、ピカピカの高層マンションがそびえている。秋空がまぶしい。 『知ってるかい? 西新宿の高層ビルなんて、作業してた連中が十何人も死んでるんだよ。東京ってのは、そうやって出来てきたんだ』 今でもたまに、彼の現場に、『今日だけ雇ってくれ』 と突然、見ず知らずの男が仕事を求めてくるという。さすがに、昔のようには簡単に雇えない。だが、 『千円札を渡して、帰ってもらうんだ。冷たく追い返すってのもナンだからさ』 (新大久保シリーズ終わり) スナップ、スナップ写真 街頭写真
by muffin-man
| 2006-10-10 23:54
| 新宿/渋谷/原宿
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Comments(14)
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nobulinn at 2006-10-11 00:44
この土地にまつわる話と、写真に写る空の青さがあまりに対照的です。
今もそんなふうにここへ仕事を求めて来る人たちがいるんですよね。 頭ではわかっても、実感がない話でしたが、新宿を歩くときちょっと今までと違うことを感じるようになるかもしれません。
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Rambler5439
at 2006-10-11 00:55
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大学を出たあと、静かな生活を送りたくなって故郷の県庁に就職しました。最初に配属されたのが豪雪地帯を管轄する福祉事務所。そこで生活保護のケースワーカーを3年やりました。担当したケースの中には、首都圏の飯場やドヤを渡り歩くうちに身体を壊し、故郷に戻って生活保護を受けることになった男たちが相当数いました。昭和30年代初め、エネルギー革命によって薪炭産業が壊滅したため山を離れることになった男たち、あるいは集団就職列車に乗って南に向かった男たちです。「三角の住友ビルの天井は俺が貼ったんだ」とか、「日暮里の近くに住んでだがら、浅草に遊びに行ぐのが一番の楽しみだったんだ」とかいう昔話をよく聞かされたものです。おそらく山谷や新大久保界隈にたむろしていた男たちの多くは、東北出身だったのではないでしょうか。
そんな経験をしたこともあって、コネとカネに囲まれて育ったおぼっちゃま政治家が"人生二毛作"とか"再チャレンジ"とか抜かしてるのを耳にすると、「一度もチャレンジしたことのねえ野郎が、ナマ言ってんじゃねえよ」と思ってしまうのかもしれません。
のぶりんさん
おいらにとって、写真を撮る楽しみの一つは、たまたまそこに居合わせた人と話をすること、かな(もちろん、コミュニケーションできない状況も多々ありますが)。この写真も、おいらに話しかけてくれた人と出会わなければ、街の背景について知らないままだったと思うんです。写真に解説めいた文章を長々と書くのは邪道、とも思いますが、まあ、プロじゃないですしね。
Rambler5439さん
おいらの場合は、逆です。北海道に住んでいた頃、夕張などの産炭地で、ヤマからなかなか離れられない人々と接する機会がありました。炭住街の濃密なコミュニティや生活のし易さが、背景にあります。安住の地なのですね。 ただ、一度、地元の小学校の校長と話した時、親の文盲率が3~4%もある、と聞いて驚きました。その街だけで生活が完結しているから、と話していました。
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lucca-truth at 2006-10-11 07:09
lucca-truthさん
ご指摘の通り、 『専用』 です。同じハローワークでも、いろいろあります。 地元に住んでたり働いていたりする人と話をすると、被写体に対する自分の独り合点などが矯正されます。だからといって、写真の出来不出来が変わることもありませんが、まあ、気持ちの問題ですかね。
たしか、新大久保に職安通りというのがあり、昔、職安通りから路地へ入ると、外人の立ちんぼが大勢いました。「新大久保」、「職安」というと風俗的な風景を連想しますが、こちらの高田馬場の出張所は、公園のようにすがすがしい場所ですね。
おはようございますm(..)m
時代ですね。大阪もそうしてつくられたと言ってたおっちゃんがいました。 高度成長の日本といえども、基盤を築いたのは「人の力」。 手でつくったんだと…。 忘れちゃいけないと思います…先人達の努力。
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henronin at 2006-10-11 11:33
このマフィンマンさんのblogはドギュメンタリーを読んでるみたいに非常に臨場感を感じます。
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aoi_color at 2006-10-11 18:08
マフィンマンさんの新大久保界隈のお話、興味深く読ませて頂きました。
私の場合、かつての日本一の繁華街だった浅草から、吉原、山谷にかけて今日に至る江戸時代から続く特異な町の形成に興味を持ち探究してきましたが、今回、マフィンマンさんがエントリした新大久保界隈と私がエントリしました三光、百人町、大久保も同じ匂いを感じました。
風俗散歩さん
何年か前に職安通りの裏手を歩きましたが、10年ほど前にはフツーにいた立ちんぼは、いなかったですね。職安通りも、韓流ブームに乗った店が増え、とてもポピュラーなエリアに変身しましたよね。
rrbさん
高度成長の頃までは、ホワイト層とブルー層が明確に分かれていたものの、それでも『今、何とか頑張れば、将来はそこそこの生活が出来る』 という希望が両者ともにあったと思います。今は違いますよね。ブルー層はもちろん、ホワイト層だって、非正規雇用化が果てしなく進み、『今も将来も、そこそこの生活は出来ない』 というツラい時代です。
遍路人さん
被写体に近いところにいる人々から話を聞くと、やっぱり情報量に厚みが出ます。と言うか、しょせん、1ショットで現代を切り取れるほど技術もありませんしね。それと、好きなんですよ、人の話を聞いたり、書いたりするのが(撮影より好きかも)。
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