永井荷風は、生前最後の作品 『 向島 』(昭和34年) で、30歳の頃に付き合った向島の女のことを思い出しながら、こう書いています。 明治末期のことです。 山の手から下町へ出て隅田の水を渡って逢いに行くのがいかにも詩のように美しく思われた。 隅田の水はまだ濁らず悪臭も放たず清く澄んでいた。 ということは、これが書かれた昭和30年代半ば、すでに隅田川は (たぶん今よりも) ドロドロに汚くなっていたのでしょうね。 おいらは、すでに生まれていました。 そうして大人になって、向島で貴重な体験をすることになります。 ふふふ、キーワードは、『 毛 』 です。 15年以上前の話です。 仕事がらみで、向島の大きな料亭 (写真の店ではありません) で一度だけ遊ばせてもらったことがあります。 座椅子に座るなり、隣についた芸者が、いきなり、 『 ささ、お召し物をお脱ぎになって 』 と、おいらのズボンのベルトに手を掛けます。 『 何だ、何だ?! 』 と、驚きながらも、されるがまま、早くも夢心地のおいら。 パンツ一丁にさせられました。 見ると、いつもは厳しい上司たちもパンツ一丁。 彼女はナンと、浴衣に着替えさせてくれたのです。 先ずはくつろいだ格好で、というわけです。 宴も進み、芸者と愉しくおしゃべりしていると、彼女が急に、 『 そう言えば、まだお札 (ふだ) を渡してませんでしたね 』 と、自分の源氏名を書いた千社札シールを手渡そうとします。 ところが、 『 あ、ちょっとお待ちになってね 』 と、何か思い出したかのように手を引っ込めたのです。 そして、その手をそのまま自分の着物の裾から下半身に入れると、 『 ウッ! 』 と、一瞬痛そうに顔をしかめた後、千社札シールを再び手渡してくれました。 シールを見ると――、 カールした短い毛が、ノリ面の間にピョロ~ンと挟んでありました。 その後、彼女とどうしたかって? 一同は、同じ料亭の地下にあるカラオケバーに浴衣&スリッパで繰り出したのでした。 最後まで全員、ばか丸出しです。 当時、すでにバブルは崩壊していたものの、この街にはまだ残り香が漂っていました。 ああ、荷風先生、おいらの向島の思い出は、このようにろくでもないものでした。 スナップ、スナップ写真 ぶらり~散歩♪
by muffin-man
| 2007-06-25 22:09
| 東向島/京島/墨田/向島/文花
|
Comments(34)
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lucca-truth at 2007-06-25 22:26
こんばんわ
向島は、やはり粋な街ですね。 暖簾もお店の入り口も素敵です。 荷風先生もマフィマンさんも楽しい思い出がおありのようですね。(^^)
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korotyan27 at 2007-06-25 23:21
こんばんわ!
すごい体験ですね。思わず読み込んで(そして笑って)しまいました。 毛が縁起物的なことだと聞いたことはありますが、まさか本当に頂けるとは! まさに荷風先生が生きた昭和の時代そのままですね。 そんなエピソードを聞いた後の向島、行ってみたくなりました。 写真のような路地がまた違って見えてきそうです。 マフィンマンさん最近ご多忙そうですね。くれぐれも御自愛しながら楽しませてくださいね。
こんばんは。
>ふふふ、キーワードは、『 毛 』 です。 え?何なのでしょう~???興味深々です! 向島ですね?常磐高速が開通する前に、水戸街道をちんたら走っていたのを思い出しました(^^) 荷風先生の好い人は、どんな人だったのでしょうね? 暖簾が、魅力的です♪
この暖簾のお宅は民家なのでしょうか?
昔美人だった女将さんが半分趣味で三味線教室やってます・・・といった雰囲気がありますね。 それにしても『毛』。 なんとなくわかったような気がします・・・。 正解を期待しつつ、お休みなさい。
羨ましくもあり、また貴重な体験をなさいましたね。
ミックスジュースで有名な喫茶店のある、黒塗りの車の往来する通りは 割と近くなのですが、ああいった店にはトンと縁がないというか、「円」がないので高嶺の花です。
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readymade_ayu at 2007-06-26 09:19
島耕作のマンガにもお守りのエピソードがありました。
今はそんなお守りをねだれるようなオチャメなオジサマも いないような気がします。そして「私からお守りもらえるなんて ありがたく思いなさいヨ!」と言う女性も少ないのでしょうね。 しかし「詩のように美しく思いながら」会いにきてくれるってステキですね。
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Rikkor at 2007-06-26 12:13
おはようございます^^
コメ欄復活嬉しいです♪ まず、下の「埼玉県川越市 納涼やけくそ写真」最高ですね^^ 特にナイスガイとんぼ付き、最高です(笑) それにしても、「毛」凄いですね^^; さすが。。。大人のお店。 そんな事するんですねぇ。。。^^;社会勉強になります(笑)
大人、子供。どっちの世界?と解らなくなってしまうお話ですね。僕も経験してみたいもんです。 どっちの世界?どちらかと言えば後者の方ですね。ちなみにその‘け‘の行方が気になります。
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Rambler5439
at 2007-06-26 13:31
x
さすがマフィンマンの旦那、「いゃーんもう(●毛)」とオヤジギャグを飛ばしつつ、鋭く反応してしまいました。あの頃は凄まじい店がたくさんありましたねー。「人殺し以外なら何をしていただいても結構ですので」とかいう秘密クラブに連れて行かれたこともあります。今どうなっているのか。久しぶりに赤坂あたりを歩いてみたくなりました。
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henronin at 2007-06-26 17:31
荷風先生の好みはどんなだったのでしょう、記されてませんか 自分としては路地よりこの暖簾の中に粋な...想像が発展しすぎて収拾がつかなくなりそう。
芸者(または遊女)のそれ・・・を包んで持っていると魔除けになるとかなんとかいうのを、何かで読みました。でも、まさか昭和の末?にマフィンマンさんがそういう体験をなさっていたとはねぇ、いや~びっくりしました。これは一生忘れないでしょうね。大切になさったほうが好いですよ。
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aoi_color at 2007-06-26 21:27
korotyan27さん
この千社札シール、家に持ち帰ってカミさんに見せたら、「バカじゃないの」と無視されてしまいました。当然ですよね。 でも、しばらくはおいらの定期入れの中に忍ばせていたものです。 バブル期にただ1回味わった、「毛の思ひ出」です。
KENTさん
「続きはこちらです」をクリックして頂けると、大変バカな話が展開されています。 まあ、大体想像がつくかもしれませんが。 水戸街道は、別の名を「ハイボール街道」とも言いまして、荒川に至るまでの界隈に、1杯250円でハイボールを飲ませてくれる小さな店がいくつもありますよ。
スクンビット総研
ここは割烹のようです。暖簾が掛かっているということは営業中なんですね、きっと。 ただ、軒先に昼定食などのメニュー表が置いてないので、おいらのような輩が気軽に入れる店でもないようです。 「続きはこちらです」をクリックして頂けると、ご想像通りの話が展開されています。
@テツさん
この体験は、当時味わった唯一最大の「バブルのおこぼれ」です。 当然、おいらの自腹ではありません。もちろん、おごってくれた人の自腹でもないでしょう。 いろんな会社が、まだクルクルと踊り狂っていた時代の話です。
readymade_ayuさん
誰でもそうでしょうが、荷風先生は思い出を殊更きれいに語るクセがあります。 実はしょせん、女をただ追いかけていっただけの話だったりします。 千社札シールは、しばらく定期入れの中に忍ばせていましたが、特に好いことはなかったですね~。
Rikkorさん
おいらも、この手の場所に行ったのは後にも先にもこれが最後です。 この世界の“慣習”として、こういうサービスをそもそもしているのか、それとも、バブル期ゆえのただの“過剰サービス”に過ぎなかったのか……。 今となっては、皆目分かりません。いずれにしても、話のネタにはなりました。
すはどりさん
料亭からの帰宅後、カミさんに千社札シールを見せると、たった一言、 「バカじゃないの」 しばらく定期入れの中お守り代わりに忍ばせていましたが、バブル完全崩壊とともに?どこかに消えてしまいました。
Rambler5439さん
あれが最初で最後とは言え、あのころは、ただのサラリーマンも少しだけ美味しい思いをしたってことですね。 おごってくれた人だって、しょせん、自分の腹を痛めたわけじゃなし。 「秘密クラブ」ってのも、スゴそうだな~。
rrbさん
このところ土日というとカッと暑くなるので、夏にからっきし弱いおいらは、まるで外出する気が失せるのです。 従って、新しい写真など次第になくなり……というショボい日々です。 この写真も、実は5月に撮ったもので(なぜかアジサイがすでにありました)、光の加減がまだ柔らかいのです。
henroninさん
この暖簾の店は小粋な割烹という風情でしたよ。 ただし、暖簾が掛かっているのに、店先によくある「昼の定食メニュー」なんてのがないということは、安売りする店ではないんでしょうね。 これ、5月に撮ったのですが、早くもアジサイが生けてありました。
neonさん
この話は正確に言うと1990年の出来事なので、昭和どころか、すでに平成に入ってますね。バブルが弾け、土地取引の総量規制などが始まった頃です。 それにしても、ああいうものが魔除けになるんですか。 とっくにどこかにいってしまいました。
aoi_colorさん
後にも先にも、「バブルのおこぼれ」に預かったのは、これ1回こっきりです。 貴重と言えば貴重です。花柳小説に出てくるように、芸者たちは三味線を弾き、唄い、踊っていました。幇間も出てきましたよ。 シールはしばらく定期入れに忍ばせてましたが、いつの間にか紛失してしまいました。
こんばんは〜!
今宵は貴重な体験を 読ませていただきました。^^ 私にとって向島は首都高速が込み始めると よく降りる出口で料亭を脇目で 見ながら一度いってみたいもんだなと^^ 千社札の話を読んで、すねに貼ったサロンパスを はがした痛さを想像してしまいました^^;
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nobulinn at 2007-06-26 22:33
こんばんは。
墨田の水を渡って好きな人に会いに行くのって、とっても素敵な感じですね。 でも、荷風先生の回想のお話だから、もしかしたらそれほどにはきれいな隅田川の水ではなかった可能性もありますね。 向島の風景だって、小説ほどには美しいものではなかったと、何かで読みました。 でも、そんな思いを持ち続けられる人生はよいものだな~って思います。 お写真の暖簾のお店、小料理屋さんですか? ちょっと艶っぽい雰囲気が良いですね♪
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takuji-Fan at 2007-06-27 18:47
太郎さん
あとから考えると、芸者の「うっ!」と顔をしかめた声なら何から全て計算尽くだったのでしょうね。 でも、こんな場所が生まれて初めてのおいらは、何が始まるんだろうという興奮と期待でいっぱいでした。 30代になったばかり。まだまだ世間知らずでした。
nobulinnさん
明治・大正期の隅田川は、戦前の昭和期よりも異なり、風光明媚なところだったようです。 荷風先生の作品によると、隅田川の渡し船の乗客たちは、川の水で手を洗っていたそうですから。 今では、先生がこの文章を書いた昭和30年代半ばとも異なり、すぐ上を首都高速が走るなど、昔日の面影はかけらもありません。
takuji-Fanさん
おいらも、決して愉しめたと言うほどではありません。 30歳そこそことは言え、集まった男たちの中では最年少。しかも当然、こんな席は初めて。 でも、「なるほど、これは勉強になる」と、座のあれやこれやだけは心の中にしっかりメモしておきました。
pikariさん
初めまして(かな)。 おいらは中野で生まれ育ちました。東京西部と言えば聞こえはいいですが、要するに昔の東京の「郡部」であり、田舎モンです。 よって、隅田川周辺の風景は異国に近い情趣を感じることがあります。 これからも覗きに来て下さい。
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